外傷患者における肺血栓塞栓症のリスクファクターは?

四肢の開放骨折、脊椎外傷、中心静脈カテーテル、手術

 

 

 

肺血栓塞栓症(PE)は外傷後の主要な合併症であり、高リスク患者の同定は重要な課題です。何故ならば外傷後は出血リスクが高いため予防的な抗凝固薬が使いにくく、また下肢外傷ではフットポンプのような機械的予防策も行いにくいためです。

 

しかし外傷に続発するPEのリスクファクターを調べた研究は、対象となる外傷が限定されていたり、PEとDVTを合わせた複合アウトカムを用いていたり、手術などの重要なパラメータを多変量解析に含めていなかったりといったlimitationがありました。特に外傷患者ではDVTに起因せずに肺動脈内で直接発生するPE(de novo PE)があるため、DVTとは別にPEのみをアウトカムとする研究であることが重要です。

 

我々は日本の重症外傷診療のほとんどを捉えているJapan Trauma Data Bankからpropensity score matchingを用いて一般外傷患者から広く対象を抽出し、多変量解析を用いてPEのリスクファクターを調べました。

 

結果、

四肢の開放骨折、脊椎外傷、中心静脈カテーテル、手術がPEのリスクファクターでした。

下肢骨折は既知のリスクですが、上肢骨折や開放骨折は今回の研究で見いだされた新規のリスクファクターです。開放骨折は非開放骨折に比べて出血や軟部組織への損傷が大きいため、凝固障害がより顕著にでるためかもしれません。

また四肢骨折に対して手術を行った患者でサブグループ解析を行い、来院から24時間以降の骨折手術もPEの新規リスクファクターでした。外傷患者においては外傷による炎症に手術侵襲が重なってPEを発症する2 hit theoryが提唱されています。外傷による炎症が増悪する前に手術を行うことでPEが減らせる可能性が初めて示されました。

 

 

文責:入山大希

 

 

 

 

メンターコメント

下記の外傷後の脂肪塞栓症の研究とともにDr入山が解析を担当した外傷合併症研究の第2弾です。似ているようで違うこの二つの疾患のリスクファクターを明らかにすることによって、詳細が更に明らかになりました。

 

外傷後の脂肪塞栓のリスクは?

 

 

”de novo PE”や”2 hit theory”を考えながら、外傷診療をしている人はどのくらいいるでしょうか?当たり前ですが、外傷も医学です。これらの研究が重症外傷患者の予後改善の一助となれば幸いです。

 

 

外傷初期診療教育やIVRの発展、車の安全性の向上などによって、外傷患者の予後は改善してきました。一方で、その改善は近年停滞傾向です。それには高齢化だけでなく、外傷後の合併症と考えられる1st impact以外の要因が絡んでいます。本研究はその改善を目指す外傷合併症研究の一環です。下記の基幹論文から様々な研究が派生しています。

外科手術のQuality IndicatorであるFailure to Rescueは外傷診療の質の評価に使えるのか?合併症率は?

 

一緒に同じような研究をしたいと思う方は下記までご連絡ください。

お問い合わせ

阿部

 

 

 

 

 

 

原著論文:A nested case–control study of risk for pulmonary embolism in the general trauma population using nationwide trauma registry data in Japan
Iriyama H, Komori A, Kainoh T, Kondo Y, Naito T, Abe T
Scientific Reports 11: 19192, 2021

 

rdcu.be/cyASk