外科手術のQuality IndicatorであるFailure to Rescueは外傷診療の質の評価に使えるのか?合併症率は?

外傷診療の質はFailure to Rescue (FTR) にも合併症率にも関連する。

 

 

2020年日本集中治療学会優秀演題賞ノミネート研究です。

 

診療のエラーを減らすこと、合併症を防ぐことは医療の質の向上の中心だとされています。その中で”Failure to Rescue (FTR) : 合併症を起こした後の死亡”は手術関連の重要なQuality Indicator(QI)として測定されてきました。

 

定時手術

➡️ 術後生存するのが普通
➡️ 合併症 ➡️ 良くなって生存
➡️ 合併症 ➡️ 死亡 (Failure to Rescue)

 

定期手術の場合、良くなって生存するのが普通です。しかし、一定の確率で合併症も起こします。手術を行なっている施設の中で成績の良い施設と悪い施設を比較すると、合併症率は変わらないが、合併症からの回復に差があったと言う報告がしばらく続きました。そのため、合併症を起こすのは止むを得ないが、そこから回復させられるかどうかがその施設の実力であると言う考え方が現在主流であり、FTRはその指標なのです。定期手術の場合、理論上、FTRはゼロのはずですね。

例えば、下部消化管疾患に対してどんなに良い手術を行なっても、一定の確率で縫合不全は起こると思います。そこから良い再手術のタイミングや感染症対策、ICU管理などを用いてどのように回復させることが出来るかでその施設の良し悪しが決まると言うことです。

 

外傷

➡️ 生存
➡️ 外傷そのもので死亡
➡️ 合併症 ➡️ 良くなって生存
➡️ 合併症 ➡️ 死亡 (Failure to Rescue)

 

しかし、FTRが外傷診療のQIになりうるのか?という点については未だ議論の分かれるところでした。理由として、外傷は良い診療をしても外傷のそのもの(1st impact)によって死亡することもあります。また、外科手術と違い、全例手術する訳ではないことや外傷の手術自体も減っています。そのため、合併症やそこからの回復(FTR)の予後に対する影響は未だ情報が不十分でした。

そこで我々はFTRが外傷領域でも診療の質を測定する重要な指標として拡大利用できるかどうかを評価しました。

我々は日本の重症外傷診療のほとんどを捉えているJapan Trauma Data Bankを用いて、標準化死亡率で施設をランキングし、その合併症率、FTRを比較しました。我々の対象患者には手術をしていない症例も含んでいます。

 

 

結果

外傷後48時間生存し、合併症を起こさなければ、入院死亡率は3%未満でした。しかし、ひとたび合併症を起こせば、死亡率はその3倍以上になりました。施設の質で比較すると合併症率も数%違い、FTRも約2倍でした。

 

つまり、定期外科手術とは違い、外傷診療の質の高い(予後の良い)施設は合併症率もFTRも低いことがわかりました。手術したかどうかに関わらず。

 

外傷は時間との戦いの疾患だとされ、初期診療にフォーカスが当てられがちです。しかし、Resuscitationが終わった後のICU管理、病棟管理こそ重要だと言うことがはっきり分かりました。

 

 

外傷内科とか、整形内科とか本当は非常に重要な考え方なんだろうと思います。ニーズベースでは。なかなか流行らないとは思うけど。。。

 

 

原著論文:Abe, T., Komori, A., Shiraishi, A. et al. Trauma complications and in-hospital mortality: failure-to-rescue. Crit Care 24, 223 (2020). https://doi.org/10.1186/s13054-020-02951-1

https://rdcu.be/b5g85