敗血症の血液培養陽性の意味は?

自身初めての原著論文でした。元々共通の概念だった菌血症と敗血症ですが、敗血症が感染に伴う免疫応答不全、臓器障害と定義づけられてから敗血症の研究は飛躍的に進みましたが、菌血症の研究はそれに比べて少なめです。敗血症に菌血症を伴うことにどのような臨床的な意義があるのでしょうか?

 

結果は菌血症は敗血症の重症度には関連するが死亡率には関連しないというものでした。

 

重症度が違うのに死亡率が違わないのはおかしく感じるでしょうか?ICU領域の研究では一般的にはceiling effectが考えられます。しかし、日本の敗血症の院内死亡率は25%程度なので、他の理由も考えなくてはなりません。感染症の場合、菌血症は有無に関わらず抗生剤は同じで、治療期間に影響を与えるだけなので(抗生剤の投与期間は慣習の方が多く、エビデンスは不足しています。)、適切な抗菌薬を早期に投与できれば、菌血症であること自体は院内死亡率には影響しないのかもしれません。もしくは血液培養の結果、起炎菌が早期から明らかになるため、より戦いやすいのかもしれません。

では、起炎菌の違いによる重症度や死亡率はどうなのでしょうか?この点は自身も気になるところで、Reviewerにも指摘されましたが、1000例では数が少なく統計学的には言及できませんでした。しかし、Table4を見ると起炎菌によって特徴や予後に違いがありそうなことは見て取れます。我々の以前の研究で示したように起炎菌は感染臓器とも密接に絡み合っています(Abe T et al, Journal of Intensive Care 728, 2019 https://rdcu.be/b49eM)ので、これを解き明かすためにはそれらの正確な診断と菌が多彩なため、より多くの症例数が必要だと思われます。更なる目的を持った症例集めが必要だと感じました。

また、同じ細菌でもVirulenceが異なれば、菌血症のもつ意義も異なるかもしれません。Virulenceの違いによる敗血症の予後の違いは別の論文(Hifumi T et al, Acute Medicine & Surgery 7: 1, 2020)として発表していますので、別の機会にお話ししたいと思います。

 

 

 

Komori, A., Abe, T. et al. Characteristics and outcomes of bacteremia among ICU-admitted patients with severe sepsis. Sci Rep 10, 2983 (2020). https://doi.org/10.1038/s41598-020-59830-6

原著論文:https://rdcu.be/b49eu

文責 小森大輝 阿部智一